1年ほど前に当塾に入塾し、都合により今月で離れるグループがある。このグループの代表者Iさんとその仲間は『質問魔』タイプで、時にはレッスン終了後丸々2時間ほど質問攻めに遭うこともあった。そのたびに根気良く丁寧に説明して来たつもりだが、次のレッスンが終わるとまた2時間の質問タイムが待っている。
質問を受けることはサービスであり直接収入には結びつかないが、メリットは大きい。このことは
当コラム20話でも触れた通りだが、Iさんとの会話の中でも以前面白い話が聞けた。
Iさんが一般のスクールで指導を受けていた頃、あるコーチからストロークにアウトミスが多いと指摘され、
『入らん球なんか打ってもしゃ〜ないぞ!』
というようなことを言われたらしい。生真面目なIさんは
『成る程確かにそうだ』
と思い直し、それからは全ての球がコートに入るように気をつけて打つようになった。ところが、アウトしそうな球を無理矢理ねじ込む為にIさんは手首を使うようになり、それ以来繰り返し肘と手首の故障に悩まされることになった。
市民大会レベルであれそれ以下であれ、何らかの試合に出たことのある方なら頷かれることと思うが、いざ試合となると
(たとえそれが賞金も賞品も何もかかっていない草試合であっても)緊張により身体が動かなくなることがままある。これは誰にでも起きるごく普通の心理的反応だが、この反応を克服或いはある程度抑制出来るようになったのが、いわゆる『試合慣れ』という状態だ。
試合慣れを作り出すには『繰り返し試合に出て文字通り慣れる』『精神修養を積んで多少のことには動じない強固な精神力を養う』などの手法があるが、前者は非常に手間がかかり、後者はなかなか常人には会得し難い。前者においては『何度試合に出ても緊張してミスばかり繰り返しなかなか慣れることが出来ない』という、新たなストレスの種を生じることもある。対処法として色々なやり方が知られているが、案外使われていない手法に『練習ではストロークをアウトさせる』という、塾長お奨めのテクニックがある。
人間は緊張するとどうしても手足に余計な力がかかり、大きく腕を振れなくなる。振れないので球が飛ばず、10の飛距離が必要なところで8ぐらいしか飛ばなくなる。ならばそれを逆手に取り、普段12〜13ぐらいのアウトするような球を打っておいて、緊張して短くなった時にちょうど10ぐらいで収まるように誘導するのである。邪道と言えば邪道だが、腕を大きく振って飛距離を出すにはどうすれば良いか?を知ることが出来、結果的に距離感を養うことにもなる。
こうやって試合になっても伸び伸びと球を打つ感覚を掴むことが出来れば、おのずとミスも減り少しでも早く緊張感が薄らぐ手助けになる。勿論、試合慣れしてきたら徐々に普段の球を11〜12・10〜11と短くし、最終的にはピッタリ10でコントロール出来るよう修正する必要がある。
この練習法には、自分の打ち方の癖を修正しやすいというメリットもある。アウトするぐらい力強く伸び伸び打てば、おのずと自分にとって自然で無理のないフォームが見えてくる。それを踏まえて必要な箇所だけ修正し、個性を伸ばしつつ安定感を引き出すことはそう難しくない。それに、球がアウトするのを入るように矯正するのも比較的容易なことだ。逆に、小手先で入る球ばかり打つ癖を矯正するのは結構難しい。
前述のIさんのように、コーチによる小手先の矯正
(強制?)が故障の原因になったのは極端な例かも知れない。しかし、故障というデメリットが生じた現実を見る限り、やはり塾長としてはこの指導には納得出来ない。
生徒さんには様々なタイプがあり、他者に絶対真似出来ないような特異な打ち方をする人にもよくぶつかる。その度に個性を無視して『標準的』『模範的』な打ち方の枠に押し込もうとしたり、結果のみを求めて故障を招くようでは、コーチとしての資質が疑われる。今回Iさんから仕入れた話も、こうやって弊サイトのネタとして有難く頂戴するだけでなく、常に自身への反面教師として脳裏に納めておき、自身の研鑽につなげたいと思う。