ここは誌上レッスンのバックナンバーです。過去の作品を各話・または同一テーマ毎にまとめてあります。

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第32回:ルール上は駄目ですが…

 塾長のレッスンは、スクールでは取り組みにくい『フォーメーション』や『ポジション取り』などを中心にやっています(世間一般ではこ〜ゆ〜のを「すき間産業」と呼びます…笑)
 無論生徒さんのリクエストに応じて基礎練習も随時やるんですが、基礎に対してリクエストを頂くことは割と少ないです。普段通ってるスクールで基礎はおなか一杯になるぐらい十分にやらされてるんでしょうね。一方で、フォーメーション練習などは最上級クラスでもない限りあまりやらないので、色々とリクエストを頂きます。中でも、『パートナーとの位置関係』に悩む声をよく聞きます。
『パートナーが捕球の為にコート外まで出た時にどこに立てば良いか?』
『チェンジはどんなタイミングですれば良いか?』
『ロブを上げた場合次にどう動けば良いか?』
といった質問は、しょっちゅう受けています。そこで最近、次のようなメニューを組んで練習しています。
パートナー同士徹底的に声を掛け合ってプレーする
というもの。前衛と後衛でお互いに打った球種や相手の動きなどを教え合い、ポジション取りなどを機動的に連係出来るようにする為の特殊な練習です。
 但し、公式の試合ではこの『声掛け』はルール違反になるため出来ません

 8世紀頃にフランスの貴族の間で発祥し、古くは古代エジプトの宗教行事にも由来すると言われ、今もなお『紳士淑女のスポーツ』とされるテニスでは、ゲーム進行上のルールだけでなく選手に対する倫理規定まで定められています。ゲーム中に適用されるのは主に『コードバイオレーション(Code Violation=規定違反・以下本項では『CV』)』ですが、その他にも大きな大会では別個に細かな倫理規定を追加することもあります。一時期シャラポワ(Maria Sharapova)などが打球を打つ度に上げる甲高い声が、CVのうちの『Audible Obscenity(聞き取れる卑猥な言葉)』や『Unsportsmanlike Conduct(スポーツマンらしからぬ行為)』を禁止した項目などに違反するのではないか、と問題になったことがありました。結局は『必死にプレーするうちに自然に漏れる意味のない声だから』というような曖昧な判定の末、容認されるようになったようですが、女性同士の対戦ならまだしも男性諸氏がシャラポワと対戦することになったと想像すれば、あの(聞きようによっては艶っぽい)声に妙な感情を呼び起こされてプレーに集中出来なくなる、という主張も理解出来るでしょう。
 このように、『お互いにプレーに集中出来る環境を維持する義務』を定めた倫理規定のもとでは、相手に聞こえるような声を出すのが許されないことはご理解頂けるかと思います。むしろ、『プレー中(特に自分達が打った球を相手が打ち返すまでの間=打球を打つ為に相手が一番集中したい間)は一切口を開いてはならない』というのが建前です。
 但し、アウトと判断した球をパートナーに見送らせる為に『ウォッチ!』等と勧告することは許されています。実際には、左右の位置をチェンジする場合に『Change!(左右のポジションを入れ替わって!)』と言ったり、どちらが次の球を捕球するかの指示『You!(あなたが捕って!)』や『OK!(私が捕る!)』など、短いフレーズを自分達のプレー中(相手が球を打った後、自分達が打つまでの間)に言う場合は認められる傾向にあります。
 しかし、全ての球で『You!』『OK!』と絶叫したり、『あ〜私が捕るからチェンジして〜左行って〜ロブ上げるよ〜クロス行ったよ〜スマッシュ警戒〜!』などと喋り続けるようだと、相手側はプレーに集中出来ません。審判(セルフジャッジの場合はレフェリーや主催者)の裁定により、CV違反で『警告→1ポイント喪失→1ゲーム喪失→失格』の順に処分を受けます。今回のタイトルを『ルール上は駄目ですが…』としたのもまさにそれが理由ですが、今やっているのは練習中ということで敢えてそれを細かくやり取りし、その中でお互いの呼吸の合わせ方や位置取り・動くタイミングなどを学習しようという試みです。

 例えば、相手に前衛の頭の上(ストレート)をロブで抜かれ、チェンジを余儀なくされたパターンを考えてみましょう。後衛は相手の球を追わなくてはならず、おのずと動き方が制限されるのに対し、前衛は自分がその球を打たないが為に動き方の自由度が高く、逆にどう動いて良いか迷いやすいものです。一般的には
@左右の位置をチェンジ(入れ替え)してから後衛がロブで切り返し、チェンジしたままのポジションでプレーを続ける
のが普通でしょう。ところが、例えばバックサイド(アドコート)でのポイントで且つ後衛が足の速い男性なら、
Aチェンジした位置から強打出来るので前衛は大きくチェンジせず次の攻めを狙う
ことも有り得ます。また、一番悩むのが相手のロブがストレートではなくセンター位置狙いだった場合。チェンジするかどうかの判断は微妙で、 B後衛が回り込んで処理することでチェンジせずにプレーを続ける のも選択肢の一つです。これらを絵にしてみましょう。
 図の上側が敵陣、下側が自陣です。自分が自陣前衛になったつもりで見て下さい。
 左端の図では、フォアサイドで相手後衛がストレートのコーナーにロブを打っています。この位置からだと後衛は大きく走らされたうえにバックハンドで打つことになるので、センターへ逃げのロブを打って時間稼ぎするのが賢明でしょう。こんな時には、前衛はそのロブが甘くなった時のことを考えて、チェンジしつつやや深い守備位置へと入ります。相手ロブによりチェンジさせられた時に一番良く使う手です。
 真ん中の図は、バックサイドで自陣後衛が足の速い男性、という想定です。チェンジしたとは言え、後衛は足が速いので余裕を持って打点に入ることが出来、フォアで強打が可能です。この場合、思い切って相手後衛のバック側を強打で狙えれば、その後のプレーを優位に進められそうです。そうなると、前衛はクロス側に大きくチェンジするより、中央付近に陣取って相手後衛が自陣後衛の強打に打ち負けた時にポーチ出来るよう準備します。勿論、さらに余裕があれば自陣後衛が順クロスに強打し、相手前衛の左脇を抜くこともあり得ます(点線のコース)。その場合前衛は相手前衛の動きに合わせて徐々に左に位置を変え、相手前衛が何とか返球して来た時にその球を叩けるように準備します。
 右端の図では、フォアサイドで相手のロブが中途半端にセンターに来た場合です。これを自陣後衛がバックハンドで処理し、返球が甘くなってしまうと相手の思う壺。逆に回り込んでフォアで強打出来るようだと、攻撃の幅はグンと広がります。この場合、相手後衛のフォア側に(特に浅い球を)返してしまうと、ショートクロスに切り返されて墓穴を掘る危険性があります。このため、狙う位置はセンター付近より右側が中心となりますが、この球を相手前衛に捕られるとウルサイことになります。恐らく相手前衛もこちらの陣形が乱れたのを見て『隙あり!』とばかりに前に詰めてポーチを狙ってくるでしょうから、裏をかいて逆クロスにトップスピンロブを打ってみたいところです。うまく決まればまずエースになりますが、前衛は相手前衛の頭の上を抜けたと見るなり思い切って前に詰め、万一相手後衛が何とか返球して来た場合にトドメを刺せるように準備しておきます。自陣後衛が回り込む場合の前衛の位置取りは図の通りで構いませんが、もしも回り込まない場合はもう少し深い守備位置に入らないと危険です。また、下手にチェンジしてしまうと左サイドに穴(誰も守っていない空間)が出来てしまうので、後衛から特別に指示のない限りチェンジせずに我慢したいところです。その他にも、ゲームの前半でポイントに余裕があるなら相手前衛のボディーからバック側を狙って強打し、ビビらせておくのも(ゲームの後半で主導権を握る為に)効果的でしょう。

 以上のように、一言で『前衛の頭上をストレートロブで抜かれた』と言っても、その時々の陣形やパートナーとの相性・敵の攻守のパターン・ポイント状況等によって、前衛の動き方は千差万別です。図に示した位置取りもその一例でしかなく、塾長とプレースタイルの違うコーチに聞けば『こんな動き方したらあかんで!』と一蹴されるかも知れません。
 結局、これらの動くタイミングや位置取りを知るには、実戦形式の練習の中で確認しつつ慣れてゆくしかありません。自分で色々と考え、試行錯誤を繰り返しながら自分なりのプレースタイルを見つけ出し、それに合った動き方を学んでゆくのです。しかし、不慣れな生徒さんにイキナリ『自分で考えて適切に動け!』と言っても無理があります。そこで、自分に合った動き方を学ぶ上の補助として、後衛に入ったコーチが色々と声で指示を出しながら練習している訳です。

 具体的には、『行動(次に何をすべきか)』『球種(何を打ったか)』『位置(どこへ打ったか)』『注意点(球の回転や深い浅いなど)』を伝えます。
 例えば上の図の左端なら、後衛はその球が前衛には捕りにくいと判断した瞬間、『Me!(私が捕る・「I!」「OK!」等も使う)』と自分が捕ることを伝え、続けて『Change!(左右の陣形を入れ替え)』することを伝え、走って球を追いかけます。追いかけながら位置関係や自分の余裕、パートナーがチェンジする余裕が十分あったかどうかなどを考えて、打つべき球種とコースを考えます。図左端の場合はセンターロブが妥当なので、打つと同時に『ロブ上げたよ!センター!』と、球種と位置を伝えます。このロブが浅くなってしまった時には『浅い!』『下がって!』等と続けて、前衛に相手スマッシュに対して警戒するよう注意を促します。
 図の中央なら、『Me!』の後に『打ってくよ!』などと続け、強打で攻めることを伝えて前衛に攻撃的な位置取りをするよう促します。ここで相手前衛の左脇を狙う場合、前衛の動きはかなり難しくなりますので、事前に『こんな時に順クロスを狙うこともあるよ』等と打ち合わせしておきます。
 最後に図右端なら、まず『Stay!』『No change!』等、チェンジしないという意味の指示を出し、打つと同時に『右ロブ!』と前衛に伝えます。慣れてくれば、前衛はこの指示が『回り込んで打つ』ことを意味するのだろうとわかるようになります。
 こういった練習を積み重ねることで、自分なりの動き方を学習し、また前衛と後衛が連係しつつチャンスを逃さない為にはどうすれば良いかを知ることが出来ます。

 この他にも、球の浅い深い・回転の有無なども重要な情報です。特に、後衛同士のラリー中に予想外に相手の球が短くなった場合、正面から見ている後衛のプレーヤーより、斜め横から見ている前衛の方が球の短い・深いにはいち早く気付けるものです。今度は前衛から後衛に対して、自分が手を出さない球でも
『浅いよ!』
『回転かかってる(から球が止まる・曲がる)よ!』
と指示してみましょう。前衛に入ったプレーヤーは自分が手を出さない球に対して
『私は捕らないから知〜らないッ!』
といった消極姿勢になりがちですが、これでは次に何が起こるか予測する力が育ちません。後衛に任せた球が後衛にとって打ちやすい(フォア側の浅い球など)と判断出来れば、次に相手がポーチ出来る危険性が少ないと予測出来るので、より攻撃的な位置取りが出来ます。逆に後衛にとって打ちにくい球(バック側や深い球など)だとわかれば、相手前衛のポーチに備えてしっかりと守備を固められます。自分が捕らない球を含めて全ての球の球種・球速・深さ・角度などを常に観測する癖を付ければ、予測力はグンと伸びてきます。上手なプレーヤーが『常に自分が打った先に立っている』ように感じるのは、こういった予測力を身に付けているからです。

 最後にもう一度言いますが、プレー中の発言は本来全面禁止です。この練習は、最終的に全く声を出さなくても『阿吽の呼吸』で動けるようになる為の、その『呼吸』を掴み取るまでの特殊なものです。あくまで練習の時にだけ、練習相手の理解のもとでやって下さい。『ウルサイ!』と言われたら、ルール上の非がこちらにある以上、素直にゴメンナサイして静かにプレーしましょう。

2010.05.24 Copyright(C)しんのすけ


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