平成21(2009)年12月1日、第26回流行語大賞(ユーキャン新語流行語大賞)の発表があり、この年の年間大賞に『政権交代』が選ばれました(
※1)。『現代用語の基礎知識』の宣伝を兼ね(?)昭和59(1984)年から毎年開催されているこの大賞は、その年の新語や流行語から主だったものを選び、独自に表彰しています。これに感化された訳でもあるまいに、『流行』というものにトンと疎い塾長が、何をトチ狂ったのか最近コートである言葉を流行らせようとしています。それが今回のサブタイトル
『
出張サービス』
です。
言葉自体は以前からあり、下手をすると怪しい方面の言葉と間違えられそうですが、果たして塾長はどんな意味でこの言葉を使っているのでしょうか?
前置きが長くなりましたが、塾長が提唱する『
出張サービス』とは、
『不必要にネットに詰めることでかえって相手を助けてしまうプレー』
を意味しています。
テニスのボールも、地球上でプレーする限り物理法則に拘束されるため、球速や角度はプロ・アマを問わず物理的な制限を受けます。図を見て下さい。
並行陣を取った時に、相手がこのような低く短い球を打って来ることがあります。『相手が前にいる時は足元を狙う』のがセオリーなので球筋が低いのは当然ですが、その球が必要以上に短くなった場合にこうなります。そんな時、よく言われるのが
『とにかく前で取れ!』
ということ。相手のミスを見逃さない・攻撃的にプレーするという点では正解かも知れませんが、ミスした球が浮いているならともかく、こんな低い球が来ている時には自殺行為になり得ます。
ネットより高い位置からスマッシュを打つ場合、相手コートが見えているなら理論上は幾らでも速い球が打てます(
※2)。逆に、水平線より上に向けて打った球は、地球の重力の助けを借りて落ちて来なければならないため、プロ・アマ問わず角度と回転に応じた速度以上の球を打てば必ずアウトしてしまいます。
それを踏まえて考えると、ネットに近付いてなおかつネットより低い球を打つということは、打つ球に大きな速度制限を加えることに他なりません。相手にそこを見抜かれたら、思い切ったポーチに出られたりして逆襲を受けることも考えられます。対策として唯一考えられるのはドロップショットですが、それも同様に前衛に見抜かれてはなかなか決まりません。このように、一見すると有利なようで実際には自分で自分の首を絞めるような位置取りを、『わざわざ打ちにくい位置に移動(=出張)して相手にとって楽な球を返球(=サービス)する』、即ち『
出張サービス』と呼んでいます。
一方、一般的なセオリーとは逆に1〜2歩下がるとどうなるでしょう? 一番上の図で見るとおり、相手の打った球がバウンドした後の最高点は、並行陣の立ち位置より少し後ろにあります。うまくこの位置まで下がって待つことが出来れば、球の最高点から強打しての返球が可能となります。
球の最高点は即ち地面よりも一番高いポイントであると同時に、一番球の速度が遅いポイントでもあります。また、少し下がる分時間的にも余裕が生まれ、ミスしにくくなる効果もあるでしょう。ネットから離れる分左右に角度をつけにくいというデメリットはありますが、相手にサービスすることを思えばあまり気になりません。そう考えれば、この場合は下がった方がベターと言えるでしょう。
特に自分自身プレーヤーとしての経歴が長いコーチや、まだ若くて攻撃的なコーチにこういった『前へ!前へ!』の指導が多いように思います。彼らは一般プレーヤーよりもさらに1〜2歩前へ詰めて、ネットぎりぎりで(=球がネットより低い位置に落ちる前に)この球を強打することが出来るのでこんな指導をするのですが、同じことを週末や月数回しかしないアマチュアプレーヤーに求めるのはちょっと厳し過ぎるように思います。塾長はまずこの
『下がることもアリ』
のパターンで指導して、まれに居るネットぎりぎりまで詰め切れるプレーヤーに対してのみ、前へ詰めるパターンもあることを示唆することがあります。それとて、詰め方を誤ればカウンターのロブを喰らいやすいし、横方向へのパッシングショットで抜かれることも多く、実際の挙動にはかなり高度な技術が必要なためあくまで『参考情報』として伝えるように留意しています。
という訳で、『
出張サービス』という言葉、憶えましたか? さあ皆で流行らせて来年の大賞を狙いましょう!(大嘘)
※1:ちなみに昭和59(1984)年の第1回受賞は新語部門の金賞が『オシンドローム』、流行語部門の金賞が『まるきん/まるび』でした。流行語大賞は『選ばれると翌年すぐ死語になる』というジンクスがあり、過去にも実際『小島よしお』『ダンディ坂野』『テツandトモ』『波田陽区』『レイザーラモンHG』などが受賞すると同時に翌年すぐ『過去の人』扱いにされています。
※2:音速を越えると衝撃波が発生して危険です。また、マッハ何十という速度だと空気との摩擦で球がプラズマ化し、ボールがボールでなくなります。そもそも、光の速度を超えることは不可能とされています。
2009.12.27 Copyright(C)しんのすけ