今年の夏はちょっと時間が出来てしまい、その時間を利用して新しい事に挑戦して来ました。2ヶ月ほど毎日目が回るような忙しさを体験して来ましたが、そりゃあもう大変でした。
とまあ、毎度毎度言い訳から始まるのが情けないところですが、久々の更新です。永らくお待たせしました。
今回は、『技術』的な話ではなく『戦術』的な話をしてみたいと思います。
以前親しくして頂いた生徒さんの中に、いつもいつも同じ事を言う方がおられました。今は広島に移り住んでいるその方(Hさん、お元気?)は、会うたびに
『今年こそ決定力を付けたい!』
と言っていたのですが、どうもその『決定力』とは
『チャンスに確実に得点を得られるようになりたい』
というような意味だったようです。
確かに、ダブルスの前衛で入った時、なかなかポーチに出られなくて、出たとしても決め切れない、といった症状をお持ちの方でした。
当時も色々とアドバイスをして、幾らかは改善されたようですが、その後ご一緒する機会がなくなってしまったので、今はどうなっているのかわかりません。しかし、色々と聞いてみると、同じ様な悩みを持っている方は案外大勢おられるようです。
そこで今回は、決定力を付ける為に『エースの1本前のショット』に注目してみましょう。
例えば図のようなケースで、エースショット(=相手が返球出来ない決定打)を打ったとしましょう。殆どの方はエースを打った事による直接の満足感や快感に目を奪われ、
『次も同じショットを打ってやろう!』
と意気込んで失敗をしてしまう、というパターンに陥りやすいものです。しかし、我々プロの目は、違うところを見ています(見られない『プロ』も大勢いますけどね)。
このケースの場合、もし私が生徒さんに何か指導するとしたら、図の2のショットを褒めます。実際今までに何度も経験した事ですが、その場合生徒さん(特に前衛でエースを決めた人)はまず間違いなくキョトンとした表情をして、
『え〜っ!? 何で〜? エースショットは褒めてくれないのぉ〜?』
と言う反応を示します。勿論、ミスなくエースショットを打てた事は評価に値しますが、それよりも私は、
『エースショットを狙えるシチュエーションを作れた事』
の方を評価します。
エースショットなんてものは、打てる時が来たら誰でも打てます。状況さえ良ければ、フレームショットやミスショットでもエースを取る事は可能です。しかし、科学的に言うと『再現性のない現象には価値がない』のです。
この図の場合であれば、単調なラリー(図1)の後に図2のショットを打って状況に変化を作り、相手後衛をコートの外に追い出せたからこそ図3のショットが生まれた訳であり、図2のショットなしに図3のショットは再現出来ません。しかし、多くの場合生徒さんは図3のショットの幻影だけを追い求め、
『あの快感よもう一度』
とばかりに図2のショットがまだない状況で図3を狙いに行き、失敗してしまいます。
もう一度エースを取った快感を味わいたければ、まず何より図2のショットが必要なのです。
これはダブルスに限らずシングルスでも同様です。いきなりエースを狙っても成功する確率は低いですが、図2のような『エースを狙える状況を作るショット』が打てればその後は比較的簡単にエースが取れるでしょう。
ちなみに、図2のようなショットのパターンは数多くあります。まずはその場の状況を判断するのが最低限の条件ですが、その他にも天候、コートサーフェイスの違い、サウスポープレーヤーの有無等によっても色々なパターンがあります。
例えば風の強い日はロブが有効だったり、雨の後で少し濡れているオムニコートでは滑るスライスが有効だったり、相手が強打好きなら深くて止まるスライスを使う事で打球コースを絞り込んでやったりと、バリエーションはそれこそ無数にあると言えるでしょう。
また、この図のケースでは図2で『やや強めに打つ』というのもポイントになっています。あまり強く打とうと思うとこちらがミスしてしまうし、うまく強打出来ても相手を完全に追い込んでしまいロブで逃げられやすくなります。そこで敢えて『クロスに返球出来る程度の強さのショット』を使い、相手に『クロスに返せる』と判断させる事がポイントになっています。
当然、相手がバックハンドショットを苦手にしているならもう少し弱めのショットにした方が状況を作りやすくなりますし、バックを得意にしているならもう少し強めでボディー寄りにする(バックで取れるが強い返球がしにくくなる)といったテクニックが必要になります。また、相手後衛が廻り込むのが好きなプレーヤーの場合には、この作戦自体通用しない(廻り込んだ上でストレートへ厳しい切り返しが来る)可能性も高くなります。
こういった状況判断を的確にした上で図2のショットを出せれば、図3のショットを狙う事はたやすくなりますが、多くの場合結果(図3のショット)だけを追い求める余り図2のショットを効果的に繰り出せないケースが多いようです。前述のH氏がまさにその『状況判断』が苦手なタイプで、前後の変化を見ずに取り敢えず図3のショットを狙うものだから、
『なかなかチャンスが来ない』
とぼやいてみたり、
『エースショットが打ち切れない(うまく強打出来ない?)』
といった事を繰り返し言っておられたようです。
ダブルスの場合は後衛が打った図2のようなショットを前衛が見逃さない事、シングルスの場合は自分でまず図2のショットを打って状況を作る事がうまく出来れば、必ずその後に図3のショットを打てるチャンスは巡って来ます。図2がない時点で図3を狙うのは無謀というもの。ポイントの中での組み立てはキチンとやりましょう。そうすれば、エースショットをビシ!バシ!と決められる気持ち良い1日が過ごせるでしょう。