今回も『コースの打ち分け』シリーズです。今日はその中でもアングルショットについて説明してみましょう。但し、逆クロスへのアングルショットは特別に難しいので、今回は比較的簡単な順クロスへのアングルショットに限定した内容になっています。
アングルショットはなかなか高度な技術であり、かなりレベルの高い人だけが使っているショットのように思われがちですが、実はそんなに難しいものではありません(いやホントだってば)。
テニスコートは縦横の比率が大きく違い、ダブルスの場合で縦26:横12、シングルスでは縦26:横9という縦長のサイズになっています。アングル(=角度がある)ショットという事は、この縦に長いコートを横方向(短い側)に向けて使うという事ですから、当然打球の飛距離はかなり短いものでなくてはなりません。そう考えると、多くの人が練習の最初にやっている『ミニラリー(お互いにサービスライン上に立ってやる短いラリー)』程度の飛距離で十分な訳で、要はこれをネットに対して小さい角度で打つ、というだけです。
ちなみに、図では手前の
●アングルショット(ネットに対して約27度)に比べて、
●対角線へのショット(同56度)の飛距離は約3分の5倍(167%)。つまりこのアングルショットは通常の6割の飛距離で足りる計算になります。当然ながらもっと角度が厳しくなれば、半分以下の飛距離でも十分ということになります。
このように、アングルショットはネットに対して十分に小さい角度を取り、飛距離もそれに比例して抑えることがポイントになるショットです。
これを踏まえて、実戦での使用例を見てみましょう。
例えば、フォアサイド・雁行陣同士のラリーにおいて相手のショットがショートクロスに来た場合を考えてみます。後衛のポジションから走りながらようやく追いついた位置は恐らく相手前衛の間近になり、返球するのにはこの前衛が邪魔になってしまってストレートや普通のクロスは打ちにくくなっているでしょう。そんな場合にショートクロスを狙って返球する事になるのですが、この時に多くの方が心理的に追い詰められたような気分になってしまい、
『い、いかん、ここはイチかバチか抜いてやるぅ〜ッ!!』
と躍起になって早い球を使い返球してしまいます。しかし、何度も言うようにこのコースはコートを短い方向に使っているのですから、ちょっとでもスピードが速すぎると地面に落下する前にコート外に飛び出してしまいます。
これでわかるように、アングルショットの『難しさ』は
『追い詰められたように錯覚してしまうこと』
にあるとも言えます。ショットそのものは『短い球を打つこと』と『打球の角度を変えること』という割合にありふれた、簡単な技術の組み合わせであって、特別に難しいものではありません。
一方、現実にウィンブルドン(全英)やローランギャロス(全仏)のコートではプロのプレーヤーがかなりの速度のアングルショットを打っています。このイメージがかなり強く蔓延している為か、真似をして実戦で強打してしまう方も多いですね。
ではここで、彼らプロ選手がなんであんなに強く打つのかを考えてみましょう。
言うまでもなく『勝つ』事で生計を立てている彼(彼女)らは、勝たない事には何にもなりませんので、とにかく常に相手に取られない最高のショットを打つ必要があります。ところがアングル(ショートクロス)方向には先に述べたような理由で物理的に速い球が打てません。もしこれを拾われた場合の反撃を考えると、出来ることならここも強打で乗り切りたいところです。そこでボールに特別に強いトップスピン回転をかけて、スピードがあってもちゃんとコート内に収まるような工夫をしているのです。根拠のある正確な数字ではありませんが、恐らく打球時の力の半分以上がトップスピン回転をかける為に使われていると思われます(いくら回転数を上げても球の速度とのバランスで落下する量には限界があるため、速度を上げるより回転数を上げる事にパワーを使わないとアウトしてしまうため)。
厳しい事を言うようですが、プロは、素人には簡単に真似の出来ない事が出来るからこそ『プロ』なのです。彼らと同じようなショートクロスへの速い球を打とうと思えば、プロ同様に専属のトレーナーやコーチを雇って毎日8時間以上トップレベルの練習を続けなくてはなりません。そんな事、時間的にも、そして何より経済的に無理でしょう?
しかし、『ショートクロスに
速い球を打つ』のは無理でも、『ショートクロスに 打つ』だけなら簡単です。先にも言った通り、『打球の角度を変え』て『短い球を打』てば良いだけなのですから。
さて、こうなると色々なシチュエーションでアングルショットを試してみたくなるところですが、相当に技術を上げるまではフォアハンド側に限っておいた方が良いでしょう。遅い球を使えば問題はないのですが、ドロップショットと見まがうようなヘロヘロの球でもない限り、アウトを防ぐ為に幾らかはトップスピン回転を加えておいた方が無難だからです。多くの一般プレーヤーにとってバックハンドでのトップスピンは難しく、特に強い回転をかける事は大変に困難ですので、当面はフォア側から、慣れてくればごく緩い球でバックも使い、更に上達すればバック側からもスピンをかけてゆく、ぐらいの段階を踏むと良いでしょう。
一方、この事実を逆に捉えて考えてみると、バックサイドの展開で相手のバックにアングルショットを決められたらかなり有効な武器になる事になります。左利きのプレーヤーがバックサイドを守る事にはこういった理由もあるのですが、実際にはあまり使いこなせていないように思えます。恐らく単に『左利きだから左』と思っているのでしょうが、テニスにおける戦略を考えた場合、こういった武器があるのに使いこなせていないというのは勿体無い事です。積極的に利用したいものですね。
まあ、まずはあまり回転や速度を欲張らず、弱い球でいいので練習で多数打ってみて距離や速度・角度の感覚を掴めるようにすると、案外簡単にマスター出来る(はずの)ショットです。是非1度挑戦してみましょう!