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第18回:とにかくポーチに出てみよう
今年(2008年)はオリンピックイヤー。数々の競技で盛り上がった北京五輪もついに最終日を迎えた。金メダルを狙うと宣言して実際にメダルを取ったヒトあり、メダルなど誰も予想していなかったのに取れたヒトあり、『金メダル以外はいらん!』と大言壮語しながら4位に沈んだチームあり。中には本人も周囲も金メダルを確実視していながら1勝も出来なかったヒトや、それ以前に出場すら出来なかったヒトもあった。そのそれぞれのヒト(及びその周辺の人々)において様々なドラマがあったことは、想像に難くない。
私は
『自分に出来ないことで他人を批評するな』
という思想の持ち主なので、メダルを取れなかったこと自体を批評する座にはない。但し、自分の経験を踏まえた『提言』として、今回は敢えてそのヘンの話題を取り上げてみようと思う。
例えば体操やシンクロなどの競技において、日本の技術力・技の完成度は世界的に見てもかなり高いのだそうだ。一般的傾向として、日本人は与えられた課題をとことん突き詰め、その技を究めようとする傾向が強いように思う。その結果その技に関する限り失敗は少なくなり、(特に芸術点を求められるような競技では)見た目の美しさも良くなる。
振り返って自分のやっているテニスに関して見れば、テニススクールでも確かに個々の技術を教えることには長けており、実際習いに来る生徒さんも熱心にその技術を習得しようと頑張っている。
一方で、その手法には限界もある。例えば柔道では、日本では伝統的な立ち技の『切れ』を追い求め、しっかりと組み合う限り、投げ技や足技では他の追随を許さない。しかし反面、今回のオリンピックでも顕著に見られた通り、その日本柔道への対策として世界が編み出した『組まない柔道』に対峙した時、折角完成度を高めた技の数々が全く使えなくなり、脆さを露呈してしまう。また、技の組み合わせで点数の決まる体操競技などでは、他国が先に一発勝負で大技を成功させた場合、日本選手の選択した(=練習で完成度を高めることが出来た)技の組み合わせでは他国を上回る点数が出せないことが競技開始前に確定してしまう、といったことが起きてしまう。
こういった事態への臨機応変の対応は日本的手法の最も苦手とするところであり、その辺りが(自分の主義思想を変えるようで心苦しいが敢えて言うなら)野球で調子の悪い選手を交替させるタイミングを失ったことにもつながるような気がしてならない(海外チームなら恐らく即座に・ドライに交替を告げていたのではないか?)。
これもテニスに置き換えてみると、テニススクールでは個々の技術を磨くことは出来るが、それを実戦で使う方法やタイミングを総合的・長期的に教えることは、『雨天振替』も可能な現行のグループレッスンシステムでは困難であり、実際出来ない方が圧倒的に多い。
塾長は今、実験的に、このシステムの打破を狙ったレッスンをしている。それは、ポーチに出るタイミングがわからないと言う生徒さん達に、ある一定のルールのもと無条件にポーチに出させる、というもの。
これまでの日本的手法では、ワンパターンで無条件なポーチなど、逆を突かれる可能性も考えて指導することは少なかった。しかし今、実際に、目の前に、どうやってポーチに出れば良いのかすらわからないと言う生徒さんがいるのだから、まずは
『ポーチに出ると言うことはどういうことか・どんな感じがするのか』
といったことを何度も体感して貰い、その中で自分自身で考える力を付けて貰おう、という狙いである。ある意味無責任なようにも思えるが、各生徒さんが今までやったこともなかった思い切ったポーチボレーに挑戦することで自分の殻を破り、新たな楽しみ方を見い出してくれないかとの期待を込めた、ある種の『冒険』でもある。
塾長としても、ジュニアの指導でならこういったやり方の実績があったとは言え、大人のレッスンでこれをするのは初めてのこと。実際初期には
『コーチに言われた通りに出てみたけど、すぐに見抜かれてストレートをポンポン抜かれちゃったよ〜』
と苦言を呈されることもあったが、最近になって、生徒さんの動きが少し違って来たことに気付いた。僅かずつだが、ボールに対する対処が積極的になって来たのだ。昨日もレッスンをした中でY川さんの動きが良くなったことを褒めると、
『そうなんです〜、最近コートの中でどう動けば良いかがちょっとわかって来たんです〜!』
と、嬉しそうに言っていた。こういう言葉はコーチをしている者にこの上ない喜びをもたらしてくれる。その喜びの火が消えないうちに、この話題を取り上げてみたかった次第。
北京オリンピックでは、フェンシングのように期待を超えた活躍をしてくれた選手が出た一方、期待を裏切られることも多かった。次のオリンピックは2012年(ロンドン)。それまでに、日本の各競技の指導者達が、多少荒削りでも各選手が自分の殻を破れるような練習を取り入れ、見ている我々が期待を裏切られる回数を少しでも減らせるようにと頑張って頂けないものかどうか、ひそかに期待している塾長である。
2008.08.24 Copyright(C)しんのすけ
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