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第6回:力の入れ具合
今回のテーマは『力の入れ具合』。
世間のテニスフリークの間ではこの時期『全仏テニス』が話題となっているが、コーチをやっていてこういう大きな大会のある時期はちょっとした『悩み(と言うよりも困惑?)』を抱えてしまう。その理由とは、レッスンの前日にプロの試合を見て『その気』になったまま来てしまう生徒さんが増えるからである。
確かに、派手で華やかなプロの世界に憧れてテニスを始める人も多いし、テニスを普及させるきっかけとして見ればその効果は悪くない。しかし、実際問題として…困るのである。この時期だけプロ顔負けの強打をしてしまう人がやたらと増えてしまうのだ。昨日まで
『無駄な力が抜けていい感じでフォームが出来て来たなぁ〜』
と思っていた人が突然豹変し、ボールをまるで親の仇であるかのようにボコスカ打ちまくってしまう。
『やれやれ、またイチからやり直しかぁ〜。』
と思うのだが、こんなものは一時の熱病のようなもので、TVの放送期間(≒大会期間)が終了するとウソのように治まってしまったりもする。
先日のレッスンでもまさにそんな症状の患者…失礼、生徒さんがいたのだが、この機会に改めて『テニスにおける力の入れ具合』についてまとめておこうと思う。
まず、私が時折生徒さんに言っている
『どれだけ完璧に練習しても、試合ではその半分の力しか出せない。だから練習では200%を目指せ!』
という言葉を紹介しておきたい。この言葉は私が適当に考えたもので、どんな語録にも載っていない。しかし、適当と言っても『数字に科学的な根拠がない』だけで、感覚的には結構イイ線を突いているのではないかと思う。あくまで感覚的な話だから、『何のどこがどう半分やねん!?』などという突っ込みを入れないで戴きたい。戴きたいんだってば!
さて、それでは『サーブ』で考えてみよう。例えば、100%の力(つまり目一杯の全力)を出せば時速200kmをマーク出来るアマチュアプレーヤーがいたとしよう。彼が試合で常に時速200kmのサーブを打ち続けた場合、恐らくダブルフォルトの山が累々と続く事になるだろう。シングルスなら当然絶対に勝てないし、ダブルスでもかなりの苦戦を強いられるのは言うまでもない。そんな彼にとって、かなり力を抑えた時速160kmのサーブなら入る確率はグンと上がるし、ゲームの組み立ても出来るようになって面白さも倍増し、勝てる可能性も相当高くなるに違いない。
(ここで『200km→160kmやったら、5対4。2割引。半分とちゃうやないけ!』等と言わないように。あくまで感覚的な問題であり、数字の問題ではないのだ。ないんだよ〜ぅ!)
試合で1番必要なのは『ミスをしない事(或いは出来得る限り減らす事)』である。そんな試合において、いくら自分に最大時速200kmのサーブが打てる能力があるからと言って、ミスする確率を考えずに使うのは『自滅への道』以外の何物でもない。必要なのは『最大速度』ではなく『最大確率』なのだ。
但し、『最大確率』とは、『サーブが入る確率』だけを考えたものではない。確かに速度が遅ければ遅いほど入る確率は上がるが、その分リターンエースを決められる確率も上がる。相手と自分の実力を勘案し、速度を落として入る確率を上げつつリターンで攻撃されないだけの速度は確保しないといけない。その効率の1番良い速度が『最大確率(=効率)』となる。
しかし、プロの世界は違う。自分に出せる最大の速度でも気を抜くとリターンエースを決められる厳しい世界なのだ。だからプロ選手は毎日血の滲むような練習を積み重ね、『最大確率速度』が自分の『最大速度』と等しくなるまでに鍛錬を重ねるのである。更には精神的にも極限まで鍛え上げ、多数の観客・TVが見守るという極度の緊張の中でもそのプレーが出来るようにするのだ。だからこそあれだけの強打が出来るのであり、観客を集める事だって出来るのである。皆さんがTVで見ているのはそういう世界なのだ。これを、ちょっと見ただけで真似出来ると考えるのは、少し甘い。
アマチュアレベルの練習では、『最大確率速度』を『最大速度』に多少近づける事は出来ても、『最大確率速度』と『最大速度』を等しくするまでの事は出来ない。だからこそ、『練習(特に試合が近い場合)』と言うプレッシャーも何もない環境でのプレーは、全力を出すプレーよりも試合を意識して『コントローラブルな速度』でのやり取りの感触を十分に確かめるに止めた方が良いと思っている。だから私はよく、試合を控えてバカ打ちする生徒さんに
『自分の能力の100%を試合で出せるようなら、明日にでもフランス・ローランギャロスまでの飛行機チケットを取りなさい。』
と言っている。コーチの言葉としてはやや厳し過ぎるかも知れないが、同時にこれは
『肩の力を抜いて。100%の実力なんかなかなか出せないんだから、自分に出来る範囲のプレーを楽しんでいらっしゃい。』
という励ましの言葉のつもりである。恐らく生徒さんはわかってくれているものと思う。
…わかってくれてるかな?
なんか心配になって来た。大丈夫だったよね、みんな??? f(^ー^;
2003.6.5 Copyright(C)しんのすけ
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