ここはコラムのバックナンバーです。過去の作品を各話・または同一テーマ毎にまとめてあります。

コラム・バックナンバー



第5回:がんばれ高見盛!

 高見盛 精彦(たかみさかり せいけん)。東関部屋所属、本名加藤精彦。昭和51年5月12日生まれ、青森県北津軽郡板柳町出身。
 『おや?ここはテニスのHPじゃなかったっけ?』とお言いめさるな。読み進めば関連がわかってくるはず。
 さて、5月場所も中盤戦に入った中、制限時間一杯で見せる独特のしぐさと表情で毎回観客を沸かせているこの力士だが、実は私もちょっとファンである。但し、例のしぐさに気付いたのはファンになってからであり、最初に目を止めたのはあの何とも言えない驚いたような表情が気に入ったからである。(尤も、先日はその表情故に新米横綱の失笑を買い、物議をかもしていたが…。)
 ファンになってから気付いたあのしぐさに興味をひかれて中継放送を良く聞いてみると、あのしぐさは『自分自身に気合を入れるため』なのだそうである。見た目通りに性格的に優しさを残した彼は、制限時間が来た瞬間に自分を『優しい2流の勝負師』から『厳しい一流の勝負師』へと(一時的に)変身させる、その為の儀式としてあれを行い自分に気合を入れているらしい。あのしぐさを入れない限り、彼は、勝負師としては確かに『2流』であろう(事実、4日目にうっかりあのしぐさを入れ損なった時にはアッサリと負けてしまっている)。
 その優しさは自分が投げ飛ばした相手に手を差し伸べるしぐさや、思いもかけず勝ってしまった時の申し訳なさそうな表情にも見て取れるが、本来プロの勝負師と言う者は相手を倒せなければ話にならない。相手の弱点があればそこを突き、踏みつけてでも勝たなければ生活することすらままならないのが厳しいプロの世界なのであり、そこがアマチュアとの大きな違いでもある。その世界の真っ只中にありながら敵に情けをかける姿は、2流としか言いようがない。(とは言え人間的には私は好きだ。)

 ところで、塾長が思うに、人間の能力などというものは基本的に大差のないものである。
『莫迦な事を言うな、例えば短距離走の選手なんかスゴイじゃないか!』
と思う方もおられるだろう。
 確かに世界のトップアスリートは100mを10秒以下で走り、一方普通の人の大半は100mを走り切るどころか50mもしないうちに息切れしてしまうだろう。しかし、その人に子供の頃から世界のトッププロの指導を仰がせ、適切かつハードなトレーニングを施せていたならば全盛期には12秒程度の数字は出せるかも知れないと言ったら、多くの方が『まあそれぐらいなら…』と思われる事であろう。
 この事実を改めて考えてみると、
『適切なトレーニングさえ積めば多くの人が世界のトップにかなり近づける』
という事である。10秒と12秒、その差約2割。短距離走のようなタイムを争う競技ではこの差を埋める事は極めて難しいが、例えば相撲などの格闘技系の勝負やテニスなどの対人的勝負であれば、条件さえ整えば結果が逆転する可能性は充分にある(相手が普段より1割以上調子が悪く、自分が1割以上好調なら、の話だが…)。
 こう考えると、人間の基礎的な能力にはそう無茶苦茶な差があるようには思えない。その結果を左右する1番大きな事前要素は『それまでに積んで来たトレーニング』であるが、いざその場に立つ段になれば、最も重要なのは『精神力』であろう。数量化するのは難しいが、感覚的に考えても1〜2割程度の好/不調であれば、多くの人が精神力で補えそうに考えるのではなかろうか。さすれば、自分に足りない精神力を補う為に自分自身を殴りつけ、虚空を睨み、無理矢理アドレナリンを分泌させて精神を鼓舞する高見盛関のしぐさは『理に叶っている』と言えまいか?

 話は高見盛関に限らない。一般のプレーヤーも、経験的にこの『精神力』が勝負を左右するケースが多いのをご存知の方が沢山いるはずである。
 例えば、これは私が先週ご近所の方々とプレーした時の話である。一応指導者としてテニスに関わっている私は、プレー開始前には必ずマナー上『(よろしく)お願いします』とひと声かけてから始めるようにしているのだが、あるゲームではこのひと声をかける前に試合が始まってしまった。私のパートナーだったサーバーが何の予告もなく唐突にサーブを打ってゲームを始めてしまったのである。まあ、メンバー同士はご近所のお仲間であり、普段のお付き合いもある間柄なのでそのような七面倒くさい手続きを省いても支障ないのだが、私にしてみれば『気合を入れ損ねた高見盛』のようなもの。なんだかその試合は『参加している』実感がないままに淡々と進んでしまい、スコアも良くなかった。
 同じような経験をされた方も多いものと思う。始めのひと声の有無に限らず、何かの理由できっかけが掴めないままズルズルと試合を続けてしまい、終わってみると惨敗なのだが試合をしていたという実感すら掴めないという状況である。これを私は『試合に参加していない』と評している(勿論その試合に物理的には参加しているのだが、精神的に試合の流れの中には入れなかったという意味)。こんな時にはまず良い結果は望めない。それどころか、彼我に十分な実力差があってさえ負けてしまう事もある。
 こんな時は慌てず騒がず塩を取りに行き、目を閉じたまま顔面と胸板を数発ずつ殴って腕を勢い良く振り下ろし…というのは高見盛関のしぐさ。こんな事を土俵…じゃなかった、コートの片隅でイキナリ始めてしまったら、恐らくあなたの回りには遠巻きにしてヒソヒソと語り合う人の輪が出来てしまうだろう。友達や社会的信用を失いたくなければ、他の手段を考えなければなるまい。
 一般的によく言われるのが、『ガットの本数を数える』しぐさである。試合中にこんなしぐさを見かけて『何度数えたって、試合中にガットの本数が増えたり減ったりするわきゃね〜だろ!』と思った方もあるかと思うが、これは精神的に落ち付く為に重要な動作なのである。眠れない夜に羊の数を数えるのと同様、計数動作というのは昂ぶった精神を落ち付かせるのに効果があり、羊の数を数えると眠れるのはまさにこの効用なのだ。
 他にも、ダブルスでパートナーと軽く声を掛け合ったり、ボールをトントンとついてみたり、手足をグルグル回したり、或いは自分だけにわかる『落ち付く為のおまじない』を持っている人も多い(ちなみに私は独り言を言う癖があり、時として気味悪がられてしまう。わかっちゃいるんだけど…ね)。
 とにかく、何でも良い。アマチュアプレーヤーは普段『勝負』などと言う厳しい世界とはかけ離れた処におり、皆普段は優しい(はずな)のである。そんなプレーヤーがトーナメント方式の試合などに臨む場合は、普段と違う事を十分に認識し、自分を日常の『優しいワタシ』モードから『戦闘的で厳しい自分』モードにチェンジしなければなかなか勝ち進めない。その為の手段として、きっかけとして、何か特別な手順を踏む事は精神的変身を遂げる為には非常に有効で、ある意味必要な事なのである。
 さあ、あなたも明日の試合で、高見盛関と同じように自分を叩くんだ!
 (ネタなんだから、本当にやらないでねッ!)

2003.5.19 Copyright(C)しんのすけ


★迷惑メール対策としてメールアドレスに細工をしました。メールリンクタブ(上の『本サイトに関する…』の黄色い画像)をクリックするとメールソフトが立ち上がりますが、あて先(メールアドレス)の本来『@』マーク(小文字)となるべきところを『●』にしてあります。ご面倒ですが、『@(小文字)』に直してご使用下さい。
メールソフトがうまく立ち上がらないなどの場合は、ご面倒ですが次の文字列をコピーし、同様に『●』を『@(小文字)』に変えてご使用下さい。
edail●sutv.zaq.ne.jp



since 2002.12.31  Copyright(C)しんのすけ