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第4回:失敗を恐れるな

 前回『次回の題は「失敗を恐れるな」』です』と予告してしまったが、実はその後今まで困っていた。適当な『枕』の題材が思い浮かばなかったのである。
 『枕』とは、落語で本題に入る前の導入部として語られる、本題に関係がありそうでちょっと面白い小話のようなもの。別に私はここで落語をやっている訳ではないが、少しでも面白く読んで戴く為にも、毎回ちょっとした『枕』に相当する話などしてみたいと考えたのである。
 それでは早速今日見た話を。
 今日はご近所の方々と親睦の為に近くの市民コートでテニスをして来たのだが、その時隣で2組のご夫婦(?)を見かけた。その中の一人(男性)は少し腕に覚えがあるのか、無茶苦茶なフォームで奥さん(?)相手にバカスカ打ちながら
『あかんあかん、もっと強く打たんかい!』
『ほら〜、そんなんフォアで打たんかい!』
 とまくし立てていたのである。『夫唱婦随』と言えば聞こえはいいが、…最悪である。
 テニスに限らずおよそ人に何かを指導をするには裏付けとなる十分な知識・技術が必要であり、また何よりも『指導する技術』が欠かせない。特に『やる気を引き出す』のは大変難しく、私も毎回腐心するところである。ところがこの旦那さん、奥さんがとても良い球を打ってもそれに気付かず、自分独自の基準で『良い』『悪い』を決めつけている様子。それも、自分にとってホドホドに打ちやすい球が『良い球』であり、おまけにもしも(自分の返球が悪い為に)奥さんがミスでもしようものなら喜びながら?なじっている模様。これでは練習にも何もならない。それどころか百害あって一利なし、である(もしもこれでも夫婦のコミュニケーションになっているなら0.8利ぐらいはあるのかも)。
 私も余程口出ししようかとも思ったのだが、少なくとも旦那さんの方には『大きなお世話』と言われそうだったので自重した。しかし、けなされても必死に頑張る、まだまだ伸びそうなこの女性の将来を思うと、随分と暗い気持ちになってしまった。

 さて、そろそろ本題に入ろう。生徒さんの中には面白い人がいて、こちらの指示通りに動けなかったりミスショットをするたびに『すみませ〜ん!』『ごめんなさ〜い!』と謝ったり恐縮してしまう人がいる。勿論、それと正反対の人も多いのであるが。それに関して前にある人に『コーチとしてどちらがやりやすいですか?』と聞かれた事がある。人間的(気分的)には確かにミスして開き直る人よりは謝る人の方が好感が持てるが、コーチとしてやりやすいかと聞かれた場合は、実はどちらでもないのである。問題は、ミスにどう対応するかではなく、意外にも『どれだけミスしてくれるか』なのだ。
 初めてレッスンする生徒さんの場合、コーチとしてまず知りたいのはその人のプレースタイル・性格・癖・そして問題点である。技術的に何の問題もなく、全くミスしない人はコーチするにしてもどこをどう直せばいいのか困ってしまう(勿論そんな完璧な人ならレッスンなど必要ないのだが)。それよりもいち早く普段通りのプレーをして、普段通りにミスしてくれる事が1番ありがたい。どこが悪いかわかれば、それを修正するのは簡単(コーチならお手のもの)だからだ。
 少なくともコーチと一緒にいる限り、失敗はすればするほど良いとも言える。それに合わせて指導し、それでも失敗する場合にはいち早く別の指導方法を取り入れる事も出来るからである(良いコーチほどこの指導方法のパターンレシピを沢山持っているものだ)。また、実際の試合で失敗した場合でも、どんな時にどんなミスをしたかを分析してゆけば強化すべきポイントも見えてくるし、次からの指導に大変役に立つのだ。
 昔レッスン中に良く言っていたのだが、プロ選手、中でもトッププロだって当然ミスをするのである。誰も全くミスをしないなら、サーブをしてからリターン以降ラリーは無限に続き、終わるはずがない。終わらないなら今頃ウィンブルドンでは記念すべき第1回大会の第1試合のファーストポイントをまだ延々と競い合っている最中、と言う事になってしまう!(笑)
(ちなみに、サービスエースのように純然たる『ミス』でない場合も多々あるが、この場合も『サービスのコースを適切に読めなかった』と厳しく考えて『ミス』の一種であるとした。)
 では、1試合でどのくらいミスが出るかと言うと、1セット6ゲーム先取(ノーアドバンテージ)の標準的な試合でも、結果が6−4とすると最小でも合計で40ポイントは取り合った(≒相手にミスが出た)計算になる(下表の左側)。勝った側でも最低で16ポイントは失った事になり、つまりはそれだけミスした事になるのである。
 ちなみに、もしも負けた方が失ったゲームのポイントが全て3−4で、奪ったゲームは全て4−0だったとすると、面白い事になる(下表の右側)。勝った方が24ポイントしか奪っていないのに、負けた方は34ポイントも奪っている事になる。つまり、勝った方より4割も多くポイントしておきながら負けるというケースだって考えられるのである。要は、ミスする事(≒ポイントを失う事)自体はさほど重要ではなく、いついかなる場面でミスが出たか?の方がより重要だと言えるのである。

  最小得点試合   勝ってるのに負け?
GAME 勝者 スコア 敗者   勝者 スコア 敗者
第1 4−0 × 4−3 ×
第2 × 0−4 × 0−4
第3 4−0 × 4−3 ×
第4 × 0−4 × 0−4
第5 4−0 × 4−3 ×
第6 × 0−4 × 0−4
第7 4−0 × 4−3 ×
第8 × 0−4 × 0−4
第9 4−0 × 4−3 ×
第10 4−0 × 4−3 ×
得失点数 勝者 得点24・失点16   勝者 得点24・失点34
敗者 得点16・失点24   敗者 得点34・失点24

 このように考えれば、皆さんも少しは『ミス』に対して気が楽になるのではなかろうか?
 実際、私の立場から言わせて頂くと、コーチの見ている前で普段通りのミスをしてくれることは何よりも有り難いし、それは取りも直さず貴方の上達を助けることにもなっている。
 さあ、明日からコーチの前ではどんどんミスをしましょう!(笑)。

 さて、次回であるが、もう下手に予告を打つのはやめにしておこう。何か新しいネタを仕込めたら、その時点で書き込む事にする。…どうも私の性格上、その方が合っているようなのである。

2003.4.26 Copyright(C)しんのすけ


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