今回は、ゲームの出来る中級者以上を対象にダブルスにおける『雁行陣』の役割分担について説明してみましょう。
『雁行陣』という言葉は、私も今までにテニスでしかお目にかかった事がありません。一般的な言葉ではないので少し説明しておきましょう。
まず『雁行陣』の『雁』ですが、『雁(wild goose)』と言われてもピンと来ない方でも『アヒル(goose)』と言えばおわかりでしょうか? アヒルは野生原種である雁のうち灰色雁、サカツラ雁などを飼育して作り出した品種です。丁度イノシシからブタを作ったようなものですね。アヒルの原種であり、野生のアヒルみたいなものだと思って貰えればいいでしょうか。(もっと詳しく知りたければ近所で鳥好きのヒトを捜しましょう!)
さて、この『雁』ですが、日本には『マガン』『ヒシクイ』等が冬に渡って来ます。つまり『渡り鳥』なのですが、数羽〜数十羽単位で飛来する時に面白い隊形を取ります。横一列でも縦一列でもなく、どういう訳かなんとナナメ一列になって飛来するんです(航空力学的には理に叶った飛翔方法だと聞いた事はありますが…)。この、ナナメになって飛ぶ姿と、コート上で前衛と後衛がナナメに立つ姿が似ている(かな?)事から連想されたネーミングではないかと思われます。
『雁行陣』が採用された歴史までは不明にして知りませんが、相当長い期間このフォーメーションがダブルス界を席巻しているのは、非常に理に叶ったフォーメーションだからだと思います。
言うまでもなくダブルスは二人対二人の試合ですが、一回のラリーでボールに触れるのはどうやったって一人だけ。残る一人が余ってしまいます。けど、余ったからと言ってお茶を飲みながら日向ぼっこ…が出来る訳もないので、残った一人の有効利用を考える必要があります。その一人を防御に回すのはあまりに消極的。むしろ、いつでも攻撃に参加してポイントを狙えるように遊軍として前方(=後方より攻撃力が高い位置=前衛)に配置するのが積極的で良い作戦でしょう。
この際、ラリーを担当するもう一人は敵の攻撃に備えて防御力の高い後方(=後衛)に配置し、守備/攻撃範囲が重ならないような配置を考えれば、誰でもこの『雁行陣』スタイルを思いつくのではないでしょうか。
さて、ここで書いた通り、『雁行陣』において後方は主に『防御』、前方は主に『攻撃』を担当するのが基本として話を進めましょう。その場合でも、後方のプレーヤーが『防御』だけを担当していたのではいつまでたっても攻撃のきっかけを手に入れられません。かと言って後衛が無茶な攻撃を仕掛けても、ネットまでの距離がありすぎていくら強い球を打っても相手の後衛にしのがれてしまうでしょう。それでは、後衛はどのように考えてプレーすればいいのでしょうか?
この場合、どう考えても後衛より前衛の方が攻撃力が高いのですから、後衛は前衛の攻撃力を活かすような組み立てを考えるべきでしょう。
例えば、相手の後衛のバックハンド側を攻めて、返球が甘くなったところを前衛にボレーしてもらう。或いは、相手前衛の頭の上をロブで抜いて、フォーメーションが崩れた隙を突いてもらう。もしかすると、相手後衛に向けて中ロブを上げたら、思いもかけない攻撃に驚いて返球をミスしてくれるかも知れません。『雁行陣』における後衛の役割は、まず相手の攻撃に先にミスをしてしまわないように踏ん張りつつ、隙を見て相手を崩す(=小さなミス、付け入る隙を誘う)事を考えるのを第一にすれば、『雁行陣』の利点を最大限に活かす事が出来るのです。
ところが、現実のダブルスを見ていると、後衛が一人で一発勝負のような無茶な攻撃を仕掛けて自滅してしまうパターンが嫌と言う程、ぃゃぃゃ『もう嫌・嫌・嫌だぁ〜ッ!!!』と言うぐらい目に付きます。どうも責任感が強いヒトが多いのか何だか、とにかく自分の所にボールが来るので自分が何とかしなくちゃイケナイような強迫観念に囚われてしまうのでしょうね。これでは、雁行陣を選択している意味がありません。残る一人は来るあてのないボールを待ちわびてお茶を飲みながら日向ぼっこ、或いは味方後衛の無茶な攻撃が失敗して自分が狙われる事に備えて、防具を身にまといブルブル震えている…。
こんなダブルスはダブルスとは言えません。むしろ、後衛だけ残して二対一で試合していた方がよっぽどスッキリするでしょう。そんな事にならないように、ダブルスではパートナーとの精神的な信頼関係だけでなく、プレースタイルについても共通の認識と理解を持って取り組めるようになれば、楽しさも倍増します。むしろ、わざわざ二人組んでやるのは、その楽しさを味わうためではないかとさえ、思うのです。